二人制審判の勉強



複数審判制におけるフォーメーションの形成とコミュニケーション(1)

甲斐 雄之 

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 複数審判制を担当するとき、自分の役割を明確に行動で示し、フォーメーションメカニックが多様に展開するプレーへ対処できるようにするには、パートナーと連携するために意思の疎通が必要であります。

 その手段をコミュニケーション(語意は伝達であり、行動意思の伝達として理解してください)と呼び。その形態は
1、ボイスコミュニケーション。2、シグナルコミュニケーション。3、アイコンタクト(通常は頷たり、ボイス或いはシグナルを伴います。) があります。

 勿論、経験豊富なクルーで、行動能力が高く、行動理念を共有していれば、目線でパートナーの行動意思を察知することができます。咄嗟のプレーの変化への対応を除き、コミュニケーションを要する機会は少なくなります。

 このように複数審判制において、パートナーとの間で自在にフォーメーションメカニックを駆使出来るようになるには、審判技術を高めるための多くの失敗や経験が必要であります。

 このことについて、自分の審判人生の経験を連盟時代と派遣時代の二つのエポックに分けて述べることにします。


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 連盟時代 私が野球の審判界へ入ったのは1966年(昭和41年)、プレーをしていた団地のクラブチームが所属していた連盟でした。

 当時、連盟では三人制審判及び四人制審判を採用しており、現在派遣で行っている一人制審判及び二人制審判はまったく経験しませんでした。

 当時におけるフォーメーションメカニックの習得は講習及び実戦において、そのメカニックを正確に実践すること及び判定ポジション確保のためのメカニックについて厳しく指導をしていました。

 クルー相互の行動意思を認識するために必要なコミュニケーションマニュアルについては確立されたものが無く、実戦においてクルーが適宜、相互に行動のなかで用いていた程度であったことを記憶しています。

 この点において、後で述べますアメリカの審判学校で教えるボイスコミュニケーションによる行動意思の伝達を、行動の始点に置いたフォーメーションメカニックの指導とは異なるものでありました。

 この頃に経験したフォーメーションメカニックについて触れます。四人制審判では、塁審が外野への打球を追い、フェア/ファウル・キャッチ/ノーキャッチなどの判定を行いました。

 担当する塁へ戻れない場合。三人制審判においては、前記行動に審判員が置かれていない塁に対する判定行動が加わり、これに対処するためのフォーメーションメカニックであります。

 例を設けて述べます。外野へ打球が飛び、塁審がフェア/ファウル・キャッチ/ノーキャッチなどの判定のために、これを追った場合、判定後、速やかにもどって、他の審判員の負担を軽くするように心がけ、戻れない場合には、これに応じたフォーメーションをとるとマニュアルにありました。

 この場面でクルー各自の行動認識が一致していることが絶対要件であり、この行動認識がばらつくと、フォーメーションが崩れて、判定ポジションの確保が困難になり、ポジションに穴を空たり、二人が集まって、ダブルコールが行われる危険が生じます。

 この様な場面で展開するプレーに適格且つスムーズに対応するための手段がコミュニケーションであります。審判員になり、講習会や実戦において指導を受け、これをグランドで実践することになった頃のことを思い出します。

 グランドでは行動範囲と距離感覚、更に判定ポジションの把握と「位置どり」などにとまどい、クルー相互の行動意思の一致と連携に混乱をきたして、パートナーから行け!・入れ!などボイスやシグナルで指示され、なんとか役割を果たせたことを思うと、フォーメーションの形成において、コミュニケーションが大切であります。

 とりわけ初心者やクルー経験のない者とのクルーを組んだ場合においては、必要なことでありました。

 そんな経験のなかで、行動認識を一致させ、フォーメーションをスムーズに形成させるには、自分がどんな手段で行動するかを考え、そのための手段として判定行動のキーマンとなるパートナーを注視し、プレーの展開を読み、自分の行動認識を組み立て、自分がキーマンの立場と認識したら出遅れないように思い切って行動したことが自信になりました。

 コミュニケーションは意識に置く余裕がなかったように思います。経験を重ねるなかでパートナーとなる審判員の行動能力や行動パターンなども認識できるようになると、行動に余裕ができ、コミュニケーションを行うこともありました。

 この頃パートナーと交わしたボイスコミュニケーションの手法は、マニュアルが無いので、これはプレーへの対処行動の起点で交わすものであり、極めて簡潔かつ明確に行動意思を伝達できる言葉が必要であることから、外野への打球を追う場合はゴーアウト!・塁へ戻らないときはスティ!判定行動の場合はマイジャッジ!・OK!・GO!などさまざまであったと記憶しております。

 パートナーと目線を合わせシグナルコミュニケーションも交わすことも多くありました。
この頃のフォーメーション形成におけるスタンスはクルーの行動で新人やクルー経験のないパートナーには適宜コミュニケーションの手法を用いました。

 経験豊富なパートナーで行動の起点となるキーマンの動きに合わせて自在にフォーメーションが組めるときは、お互いが目線でパートナーの動きを確認することができ、行動認識が一致していれば、プレーが予期しない方向へ展開しないかぎり、コミュニケーションは不要でありました。

 もう40年以上も昔の経験を述べましたが、後年アメリカの審判学校へ行って体験したアンパイアリングメカニックに係る教育には、まさに眼から鱗が落ちると言う言葉が当てはまる思いがしました。次回にはアメリカの審判学校で教えるフォーメーションメカニックとコミュニケーションについて触れたいと思います。(つづく)


(2012年2月1日)



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