二人制審判の勉強



複数審判制におけるフォーメーションの形成とコミュニケーション(2)

甲斐 雄之 

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 派遣審判は昭和50年(1975年)からはじまりで、現在へと続きます。活動の具体的な経過と内容については、先に連載した『派遣審判の歴史と今後の展望と役割』において述べましたので、これを思い起こして内容を理解してください。

 活動においては一人制審判及び複数制審判(二人制・三人制・四人制)を派遣依頼の内容に応じて担当するもので、すべてに対応できる審判技術が求められます。

 この審判技術について従来慣用してきたものから新たに自分達の技術基盤を構築したい、そんな望みのなかから仲間を募り、アメリカの審判学校のアンパイアリングメカニックを体験したのは1979年1月のことでした。

 これを契機として、審判学校で教える審判技術の基本とフォーメーションメカニックの習得及び実践を目的とした活動が生まれ、教室や講習会が催される過程において、派遣にも審判技術習得のための基盤が定着しました。

 但し、この事を認識して活動している組織及び個人にかぎられていることは残念であります。

 現在、派遣依頼で圧倒的多数を占める一人制審判は二人制審判における球審と塁審のメカニックを球審の行動能力を基に一体化してアンパイアリングメカニックを組み立て、活動しており、この事については先の連載で述べたので参照してください。

 二人制審判をアメリカで審判技術を習得し、マイナーリーグからメジャーリーグの審判員としての道を志す者は、彼等のために開講する審判学校へ入り、審判技術の基本及び二人制フォーメーションメカニックの教育を受け、採用された者はルーキーリーグの審判員としてスタートさます。

 勿論、この審判学校へは、これ以外の審判技術習得を希望する者も入校します。
 審判学校で教育する二人制フォーメーションメカニックでは、行動を起こす者は判定行動の始点においてボイスコミュニケーション(声による行動の伝達)をパートナーにたいして行うことを義務づけて、これを実践させます。

 打球への対応に始まり、展開するプレーの判定に備え、打球を追う者、展開するプレーに対応するために行動を起こす者をフォーメーション形成のキーマンと呼び、パートナーは彼の発する行動意思の伝達を認識して自己の対応エリアへ行動を起こします。

 自分の経験を顧みるにつけ、フォーメーション形成の要はクルーの行動意思の一致であり、フォーメーションメカニックを習得するための基本として重要な役割を持つものであることを認識しなければなりません。

 この二人制フォーメーションメカニックは複数制フォーメーションメカニックの基礎をなしており、三人制及び四人制フォーメーションメカニックへのバリエーションについては、それぞれのところで触れることにします。


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 二人制フォーメーションメカニックの概要について簡略に説明します。
 走者無しの場合、塁審は一塁手の約10〜12フィート(3〜3・6m)後方に位置し、深い守備位置の時は約5〜6フィート(1・5〜1・8m)に距離を縮めて位置します。

 外野への打球の判定責任区分は外野手センターの守備位置を中心にして、球審がレフト側、塁審がライト側の打球を担当します。内野での飛球は一・二塁間の低いライナーで塁審がキャッチ/ノーキャッチの判定を行う場合を除き、球審が判定を担当します。球審が外野への打球の判定をする時、塁審は走者の触塁(一塁〜三塁)及び走者へのプレーを担当します。

 塁審が外野への打球を追う時は球審が走者の触塁(一塁〜三塁)及び走者へのプレーを担当します。この場合、塁審は打球を判定後、本塁へ走り、本塁でのプレーに備えます。走者が塁に居る場合、走者一塁の時、ホームベースからピッチャースプレートを囲む18フィートの円の縁の一塁側に沿って延ばした仮想線上で二塁ベースとピッチャースプレートの中間点に位置します。

 走者が二塁又は三塁、二塁・三塁及び満塁の時は前記18フィートの円の縁三塁側二塁ベースとピッチャースプレートの中間点に位置します。外野への打球の判定区分は、球審が左翼手及び右翼手 が守備位置からファウルラインに向かって守備する打球のフェア/ファウル、キャッチ/ノーキャッチ、及びアウトオブプレー(ボールデットと進塁権に関するプレー)の判定を担当します。

 塁審は、左翼手と右翼手の守備位置の間の飛球に対するキャッチ/ノーキャッチ及びアウトオブプレーの判定を担当します。打球を追う場合は深く追ってもグラスラインより外へ出ないこと及びワーキングエリア(ピッチャースマウンドと二塁ベースとの間で一塁と三塁方向へ楕円形をした塁審の行動スペース)へ速やかに戻り、展開するプレーへ対応します。

 内野飛球への判定はファウルライン際又はファウルラインに向かう打球及びピッチャースマウンド前付近の打球を処理する内野手のキャッチ/ノーキャッチの判定及びフェア/ファウルの判定は球審が行うので塁審はこれ以外の飛球の判定を担当します。

 球審は走者一塁又は一塁・三塁の時、打者走者を除く走者の三塁触塁、及び三塁と本塁で起こるプレーの判定を担当します。その他のケースにおいても、打者走者を除く走者の三塁触塁は球審が担当します。

 球審は走者が一塁及び二塁に居る場合の二塁走者の三塁へのタッチアッププレーの判定を担当します。以上、球審と塁審の役割を概説しました。


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 緊迫したゲームの中で外野への打球を追う、火を吐くような激しい打球のフェア/ファウルの判定、展開するプレーへの判定行動を開始する者(フォーメーション形成のキーマン)は極めて短い時間の中で、タイミング良く、簡潔明瞭に行動意思をパートナーに対し伝達すると共に行動を起こし、パートナーはこれを確認して自分の役割となる行動を起こすことになります。

 伝達用語を簡潔明瞭なイントネーションで使うことは会話能力の優れた者であっても大変であると聞いております。実際、教室や講習会などで実践しても、原語を日本語のカナ文字にした棒読みスタイルでは、何とも間が抜けた、タイミングの良い行動意思の伝達とはなりませんでした。

 パートナーは発声の最初の段階で行動意思の全てを認識してフォーメーション形成の行動を開始します。簡潔明瞭なイントネーションによるコミュニケーション(伝達)能力を高めるには多くの努力が必要であります。


(2012年3月1日)



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