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平林岳 著
「パ・リーグ審判、メジャーに挑戦す」
(光文社新書)を読んで


磯部保彦審判員

 私が平林岳氏に初めてお会いしたのは、ジム・エヴァンス氏による審判の講習会で、平林氏がインストラクターのお一人として指導してくださったときです。その頃まったくの初心者であった私は大変お世話になりました。

 その平林氏ご自身による日米での審判活動を通しての野球観を著した本がこの春に出版されました。その本を仕事の休憩時間に書店に行き見つけたときは、まるで本人と再会したかのような感動がありました。

 いつもは鞄の中にルールブックを入れ持ち歩いていたのですが、しばらくの間代わりにこの本を持ち歩くことにしました。

 まだお読みになっていない方に、どの程度に種明かしをしていいものやら悩むところですが、ほんの少しだけお教えいたします。

 この本は七章に分かれています。
 第一章は「審判から見たベースボールと野球」ということで、日米の野球の違いや監督の違い、ストライクゾーンの違い、審判の癖への反応、どこにも書かれていないルールや選手の育成の違いなど、理由や現状など例を示しながら解説されています。

 第二章は「ルールを知れば、観戦はより面白い」と題し、実際の経験談などを交えながらわかりやすく説明されています。

 第三章は「審判になるには−日本とアメリカの審判員制度」。ご自身の審判になられたいきさつや日米の違いを両国の審判実体験をもとに述べられています。

 第四章は「誰も知らないアンパイアたちのディープな日常」ということで、マイナー・リーグ審判としての日常の体験談やメジャーの審判を目指す日本人の方の紹介、WBCで話題になったボブ・デービットソン審判の真実が同じ審判からの目線で興味深く語られています。

 第五章は「アメリカ審判日記 2005−2006」で、平林氏のブログ「オールドルーキーチャレンジ日記」に書かれていたものの中からを特に選び出し、スプリング・トレーニングからガルフコースト・リーグ(ルーキー)、ノースウェスト・リーグ(ショートA)、ミッドウェスト・リーグ(A)とランクアップしていく日々の活動が綴られています。

 第六章は「審判はフィールドで選手や監督とこんな話をしている」と題し、パ・リーグ審判員時代のエピソードを交えメジャーの日本人の活躍を称えています。

 第七章は「ルールの国とマナーの国」ということで、野球の楽しみ方の日米の違いが書かれています。

 審判という職業の苦労話しや、日本とは違った確立された審判員制度などとても興味深く、平林氏がとても楽しんでいることがとてもよくわかります。

 この本を読みながら、もっと早くにこういった経験談を聞いていたら、自分もアメリカに行っていたかもしれない、などと野球発祥の国アメリカへの憧れがどんどん膨らんでいきました。

 さらに、私を審判の講習会に導いてくださった井上公裕氏が、アメリカのプロ審判員の一歩を踏み出したことも書かれており、今さらながら素晴らしい方々に教えを授かっていたのだなあと感謝の気持ちと感動とで心がいっぱいになりました。

 この本について語っていこうとしますと、内容に入り込んでしまいそうになるのですが、それは皆様ご自身で読んでいただくとして、私が特に感じますのは、現在の日本の野球は学生野球などのトーナメント大会により、一度も負けられないという「勝つ野球」からくる戦略が、監督コーチを含む者によるルール違反ぎりぎりの頭脳(?)プレーに行き着いてしまうと言う現実があると思います。

 それに対してアメリカでは、監督が選手にルールを守るためのマナーを重視して教育し、ボールパークに集まるファンをも楽しませるという、娯楽に対するひとつの考え方の違いがあるようです。

 私が関わっているのはプロでもなく、一戦必勝の学生野球でもない、仕事の余暇を楽しむ大人たちの野球です。ですから私も、アメリカの野球のように、河川敷や公園の野球場でも、ネット裏から観戦している通りすがりの方々や、選手たちに付き添ってきたガールフレンドや家族の皆様にも楽しんでいただけるようにしてゲームをコントロールしていきたいと思います。


(2007年5月15日)


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