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本塁での激突プレーに思うこと
(下)


#47 Umpire  


 Oh〜!まだ、野次さん、喜多さんの市井の野球談義が続いている。その話を盗み聞きしてみよう。

野次さん:「今回のことはよォ、捕手はベース前に出ていたんで走者は普通のスライディングでも充分セーフになった場面だゼ。でもヨ、捕手もランナーに空タッチしているから難しいところだナ。まァ、喧嘩両成敗で双方罰せずといったところかナ」

喜多さん:「そうさナァ〜。捕手が本塁前にいて走路は空いていたんだからよ、走者は体当たりを喰らわせる事はねぇし捕手だって球を持たないで走者にタッチしに行くことはねぇだろうしナ」

野次さん:「そうだよなァ。でもヨ「アンフェアー」や「故意」だったと審判が判断した衝突プレーには「守備妨害」や「走塁妨害」を採ったっていいんじゃねぇかぃ?」

喜多さん:「そうさナァ。今まで普通のプレーってもんの規則を変えるってってわけだナ。でもヨ、本塁と二塁じゃプレーの質が違うんじゃねぇ?本塁では衝突で二塁では足ワザだ」

野次さん:「そしたらよォ、本塁は難しいとしても二塁の場合だけでも規則を変えちゃァどうだい?」

喜多さん:「ウ〜ンそうさなァ、その前に統一的な見解を作ることが先決じゃねぇかい?」

野次さん:「そうかァ・・・、それが妥当かもナ。審判によっても見方や考え方が違うだろうしナ・・・」

喜多さん:「そうなるとヨ、それ迄は本塁のクロスプレーは今までどおりに堪能できるってぇわけだ」

 野次喜多の意見は、要するに審判が走者や捕手のプレーを「アンフェアー」や「故意」と判断したならば「守備妨害」や「走塁妨害」を宣告してはどうだろうかというものであるが、その前に「選手や審判も含め、そしてファンが納得する統一見解を持つべきだ」というのである。

 しかし・・・、ファンにとって「手に汗を握りメジャーの迫力を堪能できるプレー」を審判の判断で「インターフェアー」や「オブストラクション」を適用してもよいのだろうか・・・?

 それは審判にとっても、選手にとっても非常に難しいところであろう・・・。

 メジャーで100年以上も続けられているこの様なプレーは確かに危険ではあるが「普段の、普通のプレーとされている」それは、メジャーを観る人たちの醍醐味でもあるのだから・・・。

 では、メジャーリーグの規則(ルール)委員会はどうなっているかみてみよう・・・。

 委員会は10名の委員から構成され、前年度に起きたトラブルや問題点等を検証し、規則変更が必要かどうかを検討する。NYメッツのGMやMLBコミッショナーの運営委員会副代表を歴任したSandy Alderson氏を委員長とし、現MLB運営委員会の副代表であるJimmie Lee Solomon氏、Atlanta

 Braves球団社長のJohn Schuerholz氏、LAエンジェルスの元GMで7年間のメジャー生活で二度のノーヒッターを記録したBill Stoneman氏、1967年から連続18回オールスター戦出場、通算打率.328を持つRod Carew氏、メジャー19年の現役審判員Brian Gorman氏そしてアマ球界からはNCAA等でAll Americanのコーチや新人選手育成に尽力があるMike Gaski氏等が名を連ねている。

 委員会ではメジャー機構、球団、審判員や選手等の様々な面から、そしてアマチュアーの観点からも検討がなされ、時代(次代)に適応した規則を質疑しているようである。

 ちなみに、わが国の野球規則はメジャーの一年遅れで適用されていることを覚えておこう。

 今年、2011年度版Official Baseball Rules Bookの表紙を飾った写真は9月10日、コロラド州デンバーのCoors Fieldで行われたシンシナティ・レッヅ対コロラド・ロッッキーズ戦のワンシーンである。
 8回裏にロッキーズの三塁走者Chris Nelsonがホームスティールを敢行。球審の判定は「Safe」
 (このシーンが表紙になっている)この試合の球審は#26Bill・Miller。
 この得点が決勝点となり6-5でロッキーズが勝った試合だった。

 コロラドは高地で空気が薄く、ボールがよく飛び本塁打が多く出る球場といわれている。B・ミラー氏はメジャー暦12年の中堅。今年はCrew15の一員として活躍している。

 そしてまた、アンパイアーの動きにも注目してみたい。映像で振り返って見よう・・・。

 状況:一死、走者一・三塁で打者は右・中翼間への飛球。これを右翼手が捕球。

 通常二塁審判は内野内に位置しているのだが、この時は野手が前進守備していたため内野の外に位置していたとみられる。一瞬だが一塁と二塁審判が同時に追ってしまったが、打球判定を二塁に任せた一塁審判は一・二塁間の内野内へスライド。一方、映像には写っていないが、三塁審判は走者のタグアップを確認。球審は三塁走者のタグアップの有無を補助した後、三塁エクステンドへドロー・ステップし本塁でのプレーに対応している。そして走者の本塁触塁を確認し「Safe」のメカニック。

 この時のウエスト球審のボールを注視し(ややもするとオーバーアクションンに成りがちであるが)ゆったりとしたメカニックには本当に感嘆する。巧く状況に適合し実に見応えがあった。

 プレーの質がどうであれ、冷静に判断して結果を下す。まさにメジャー33年ベテランの味である。

 この試合のクルーは本塁♯22 Joe West(33年)、一塁♯55 Angel Hernandez(18年)、二塁♯84 Angel Campos(Call up)、三塁♯75 Chad Fairchild(3年)。
 ジョー・ウエスト氏はイチロー選手が262本の年間安打記録を達成したときの球審であり、現役第二位の通算出場記録を持つ大ベテラン。
 アンヘル・ヘルナンデス氏はポストシーズンに幾度の出場経験を持ち次代を担う優秀な審判員で、2000年の東京ドームで行われたメジャー開幕NYメッツ対CHカブス戦に来日。
 二塁のエンジェル・カンポス氏はUDC内川副代表の親友であり、時々PCL平林審判員のクルーに参加しメジャーのスキルを報せてくれる良き先輩審判員である。
 また、チャド・フェアチャイルド氏は苦節7年の3A生活をしてメジャーに這い上がった苦労人だ。

 最後に、今回の激突プレーには様々な意見があろうかと思う。
その賛否はともかく、野次喜多の談義でもあったように喧嘩両成敗、痛み分けでよかったのかもしれない・・・?

 しかし、そのプレーは、実は捕手の護身本能から出ているのではないか・・・。

 時速29キロ、1.4tの衝撃で突進してくる走者に対し、本塁上或いは本塁前でシンガード、プロテクターそれにマスクは付けているとはいえ、ほぼ無防備で構えている捕手。

 その様な状況下で、走者をただ漫然と待ち構えているわけには行くまい・・・。何らかの自衛策をとる必要があろう・・・。それは瞬間的に自身の身を守るという本能が働くのではなかろうか・・・?

 そしてボールを保持していなくても走者を受けに行き、その結果が激突プレーになるのだと思うのだがどうであろうか・・・?
 いずれにせよ、スリルはあるが危険なプレーであることは間違いない。

(終わり)


(2011年8月1日)


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