臼井 淳一
「西武ドームで試合をやります4人の審判をお願いします」と言われました。お話を聞いてみますと「軟式の親善試合で野球経験者ゼロ」ということです。4人は無理なので一人制審判にしていただきました。
野球の試合はプロ野球、高校野球を観戦しても4名の審判員がいます。近所のグランドの少年野球も4人でやっています。審判は4人だと思い込んでいる人がたくさんおります。
実は公認野球規則 1・01「野球は、一人ないし数人の審判員のもとに、行なわれる競技である」(途中略)と明記してあります。
簡単に説明いたしますと4人で審判を行う場合は25パーセントの責任分担になります。3人は33.3パーセント、2人は50パーセントの責任分担になります。
1人の場合は100パーセントの責任で「分担」はありません。すべて見なくてはいけません。
メジャーリーグで一人が当日急病になりました。あいにく控え審判がいなく3人でやりました。
メジャー審判の機構は2人制審判、3人制審判を何年も経験をして、優秀な人だけがやっとメジャー審判にたどり着く、ビラミット型の厳しい機構になっております。その鍛えられた審判員でも「急病3人審判」で3つもミスをしてしまいました。
走者が出たため3塁塁審が2塁と3塁の中間に入ったため、左バッターのハウススイングを「ノースイング」とコールしてしまいました。ビデオは完全に振っておりました。
同じ場面で3塁線上のフェーアをファールと球審が行ってしまいました。
また塁審が1塁と2塁の中間に入ったため1塁線上のフェーアもファールと球審が行ってしまいました。
3つのミスとも4人いれば防げたかも知れません。もちろん4人でもミスはあります。
我々の試合はこのようなハイレベルではありませんが、1人で審判をやるということはいかに大変かをお話します。レベルの違いはありますが、それなりに難しいのです。
例えば「インフィルドフライ」を宣告して、落球して全員が走り出し、2アウト、3アウトになってしまます。それなりに説明が大変なのです。
反対に「宣告」しても「まだ捕球体制に入っていない」と抗議するチームもあります。また楽々捕球できるのに落球してダブルプレーを狙うチームもあります。それらを見破り判定するのも1人審判です。
すべてのプレーを一人で見ることは限界を感じることがあります。この「限界」を理解していただけるのはチームとの信頼関係しかありません。
例えば2アウト満塁でレフトへ打球がフラフラと上がりました。グラブへ球が触れましたが落球しました。「ノーキャッチ」とコールします。走者は全員走っています。前へ出て落球を確認しながら、瞬時にホームベースの触塁を確認します。点取りゲームなので見逃すわけにはいきません。
「審判さん1塁ベース踏んでいません」とアッピールされても残念ながら「アウト」とは言えません。ここはチームと審判の「あうんの呼吸」で見逃してもらう以外ありません。
試合の中で「今の判定はどうなの?」という微妙な場面はそれほど多くはありません。せいぜい3つか4つです。時には「あれ もう終わったの」という試合もあります。実はこの3つか4つのために審判がいるのです。
残念ながら一人審判のマニュアルはありません。二人審判〜4人審判のマニュアルはあります。講習会なども活発に行われます。これだけ一人制審判が行われているのに正式なマニュアルがないのは不思議です。
一人審判は瞬時にいろいろなことを判定する能力を必要とします。また脚力・体力も必要とされます。
審判員も高齢化が進み、若い人がすぐには育たないのが現実です。また若い人には一人審判は精神的に辛いものがあります。
チームとの信頼関係をどう築いていくかが一人制審判の最大の課題だと思います。 |