派遣審判員の歴史と今後の展望と役割 審判用マスク
甲斐 雄之助

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★21世紀の社会とアマチュア野球における派遣審判界の展望(その1)

 今回と次回で本稿の最終章になります。戦後復興を終え日本の経済及び社会の発展にはじまり、21世紀最初の10年を述べた前回までの各号で、それぞれの各年代における経済及び社会情勢の変化とスポーツ界におけるアマチュア野球の催しの推移を述べると共に派遣と呼ばれる立場の審判活動の実態と審判技術習得の行動について詳細に述べました。

 前章で21世紀最初の10年はネット情報を媒介としたアマチュア野球の催しが定着し、発展してアマチュア野球に新しい分野を築き、首都圏では各種連盟の催しと共にアマチュア野球のなかで主要な活動体となったことについて詳細に述べました。

 21世紀はどんな社会になっていくのでしょうか。世界の経済情勢を見れば、アメリカ経済はリーマンショック以降、経済の立て直しが進まず、ドル安が進み、先が見えない状況にあり、ヨーロッパでは欧州連合(EU)を揺るがす財政危機の最大の震源地であるギリシャが窮地に陥り、これの支援策と経済への波及が長期化するものと予測され、中国を筆頭とする新興国の台頭、巨大な投機マネーの世界経済撹乱など競合するなかで、企業の経済活動はグローバル化による活路の確保と生き残りを目指し、国際競争力のある企業体質の保持が至上命題となり、国の経済力に直結する経済基盤の醸成は混沌としております。

 この状況がどのように集約されていくか予断を許さない感じがします。国内における経済及び社会情勢を見れば、企業は国際競争及び国内競争に生き残れる体質維持に専念し、政治では国債を発行しなければ予算を組めない財政状況の借金大国に陥り、急進する高齢化社会に対応する社会保障費、新たに発生した災害対策と復興対策そしてエネルギー問題など難題を抱えるなかで、将来の方向性を提示できない状況にあります。

 身近な社会環境では地域コミュニティーの希薄が進むなかで、生きると言うことについて、個人が自分の能力と意思で自己の生活設計を築く、いわゆる自立と自己責任を主体とする社会へと進んで行きます。

 以上に述べた社会環境のなかで形成された、21世紀に入ってのアマチュア野球は冒頭において述べた状況が展開していくものと思います。次に、派遣審判が担ってきたアマチュア野球について展望します。従来携わってきた、企業及び団体等或いは地域コミュニティーを主体とした大会等の催しは衰退が進む現象が続くものと思います。

 ネット情報を媒介とした野球ゲームの多様な催しは21世紀のアマチュア野球において各種連盟の催しと共に、その一画を占めて発展していくことは確かであります。このネット関連の催しは今後の社会環境のなかで、自己の自由な意思と発想に基づき広範囲なネット情報を利用した野球ゲームを幅広く多様な企画で催すことができ、連盟加盟チームにおいてもスケジュール外でネット情報を利用して、魅力あるゲーム設定を自由に行っております。

 首都圏においてはネット関連で野球を楽しむアマチュア野球は、そのチーム数及び試合数においてアマチュア野球の主要な存在となります。このような状況において予想される審判の依頼についてのべます。

 複数制審判が多い企業及び団体等が催す大会或いはリーグ戦の減少は続き、ネット関連の派遣依頼が主要な活動の場となります。このネット関連の審判は特定のゲームを除き、一人制審判で実施するのか通例であり、私共が日常担当する審判は一人制審判であります。では、この一人制審判はどのように維持され、今日のアマチュア野球審判の派遣と言う一画において、主要な役割を担うようになったかについて述べます。

 公認野球規則では9・03においてゲームを裁く審判制について規定しております。(a)項では単独審判制と称し、一人制審判の役割を、(b)項では複数審判制と称し、球審と塁審の役割を定めております。

 一人制審判はアンパリングメカニックの論理において、その困難性を理由にして、メカニックの確立そして教育及び指導面において目を向けられることがなく、なおざりにされてきました。そして、今後においても、公式組織及びアメリカの審判学校では一人制審判に目を向けることはないと思います。

 その原因はベースボールにおけるオフィシャルゲームの審判は球審と塁審で構成する複数制審判で行う原則が確立されていることであります。従って一人制審判は練習試合とか遊びなどのものと認識されてきましたが、派遣組織が充実してから、活動認識が従来とは全く異なるものとなりました。

 その理由は派遣の依頼を組織として受けることは、責任を持って技術の提供を行う立場として、プロフェッショナル(専門家)としての自覚を持つことが要求されることであります。この要求に応えるためには、現実の問題として、一人制審判の困難性や不可能性への挑戦とこれを克服するためのメカニックの錬磨が必要であり、この到達点を掴むことが困難な目標に向かって反省と改善を繰り返し、依頼者のニーズに応えてきました。

 この一人制審判が今日ではネット情報を媒介手段としたアマチュア野球の催しにおいて定着したものとなったことは、一人制審判がゲーム設定を維持する環境のなかで、必要性に基づき生まれたものであり、派遣審判がこのニーズに応える努力をしてきたからであります。この努力の過程は本稿の主要テーマとして述べて来ましたので、既述の該当欄を参照のうえご理解ください。後段は次の最終回といたします。


(2011年8月1日)


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