審判員の 背中 背中画像
□□ 臼井淳一審判員 □□


【1】審判の職人
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 今は亡き、先輩審判員の方から「審判員の背中を見れば、だいたい分かるよ」といわれました。その時はなにが「分かるのか」理解できませんでした。

 この人は「寡黙な人」でした。とても煙草が好きで、審判控え室では他の審判員の話題に加わらず黙々と煙草を吸っていました。

 残念ながら2年前に「肺がん」で亡くなりました。

 この人からこんな相談を受けたことがあります。
 「田舎の土地相続でもめている。俺は長男なので、参ったよ…」。
 わたしも知っている限りのことを話しました。
 最後に一言こんなことをいいました。
「いやだ。いやだ。審判やっているのが一番いい」。

 この人とクルー(2人制)を組んだ時、わたしが間違った判定をしてしまいました。怒られるかと思いましたが、その場では注意めいた事は一切いいませんでした。逆に監督から、そのことで抗議がきた時には、断固としてわたしをかばってくれました。

 審判控え室に戻っても、わたしから質問しない限り、黙々と煙草を吸うだけでした。そしてこんなことをいいました。
「審判は人に教わるものではない。自分から覚えるのだ」。
「審判だってミスするのだ。気にしないこと」。
 落ちこんでいたわたしには「ホッ」とすると同時に「ズッシリ」と来るものがありました。

 わたしにアドバイスするにも。
「コールは早くするな。トラブルの元を撒いているようなものだ」
「相手は18人。喧嘩しても勝てない」
「分かりきったことを 答えるな」
「分からない質問には 答えるな」
「クルーの相手を信用するな」
「野球はアメリカで始まった。審判も同じだ」
「ルールブックに書いてないことも起こるぞ」
「選手は野球へのこだわりは半端じないぞ。思い違いすするな」

 2人だけの審判控え室で、この人に「なぜ?なぜ?なぜ?」と食い下がり質問をしました。そして何時間もの会話に付き合っていただきました。
 わたしは、今でもこの時期の会話がとても勉強になっていると感謝しております。

 わたしは、この人を「審判の職人」だと思っています。

 最近、「審判員の背中を見れば」という意味が分かるようになって来ました。

 わたしも引退の時期を考えよう…と。


(2004年1月1日)


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