審判員の 背中 背中画像
□□ 臼井淳一審判員 □□


【2】沈まぬ太陽
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 昨年の12月に「15時〜17時」の時間帯の審判をやりました。この時間帯は太陽が沈む直前です。それもバッターボックスからは逆光のグランドでのゲームです。

 打者、捕手、球審はボールがまったく見えないのです。特「ストライク」が見えないのです。なぜかといいますとストライクのコースに逆光がちょうど射すのです。面白い事に左右に外れたボールは見えるのです。最悪なのはスローカーブです。投げた瞬間にボールが消えるのです。そして捕手のマスクに当たるのです。

 困った事に捕手がボールを捕れず、すべて球審の私に当たるのです。当たると分かっていれば痛くないのですが、ボールが見えないで当たるのは、痛いのを通り越して「恐く」なってきました。

 もちろん打者も「集中」できません。ただバットにボールを当てるだけのバッテッングしかできずヒットになりません。

 それでも審判は「判定」をしなければなりません。そこで私は思い切って、捕手の位置より低い姿勢をとりました。ほとんど「はつつくばる」姿勢です。 
 うしろの観客から「審判なにやっていんの?」という声が聞こえました。この姿勢は実に疲れるし、また、バットが飛んできた時に避けられない危険を伴います。

 1時間が経過しましたが、太陽はまだ沈みません。本来ならばビルの下に沈むのに、なんとビルを避けて沈みはじめました。状況は最悪です。

 そこで私は一計を思いつきました。前に読んだ本のなかで「球審は投手の横からストライク、ボールの判定をした」これを早速実行しました。

 私は自慢ではありませんが視力はいまでも「1・5」です。不思議なこに、最近はだんだん遠くが見えるようになってきました。もちろん老眼は進んでいます。

 投手の横からの判定は「正解」でした。見えないボールを無理して捕手のうしろから判定するのは間違いでした。

 この試合、投球が見えないので早い時間に終わってしまいました。選手に
「面白いからもっとやろーよ」といいましたら。両チームの捕手から。

「やめてくださいー。眼がチカチカして物が黄色に見えます。体中もアザだらけです」

「だれだ。こんな時間帯にグランドとったのは」

「審判さんが捕手をやってくれるならやってもいいよ」

 ナイターの光が明々とグランドを照らしはじめ、絶好のコンデションになりました。

「はい。はい。分かりました。整列。ゲームセット」。


(2004年1月15日)


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