スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■3 ワールドカップ・サッカーは1個のボールが世界を結ぶ

 6月11日に南アフリカで開幕するサッカーのワールドカップ。それが、オリンピック以上に「地球上最大の人類の祭典」などと最大級の言葉で語られるのには意味がある。

 「丸い物」(太陽の象徴)を奪い合う競技は、人類文明の誕生当初から存在した。古代メソポタミアでは、敵の部族の王の頭蓋骨(丸い物)を奪い合い、それをゴールに運んだ者(支配した者)が実際に玉座に就いたこともあった。
 そんな競技が東はインド、中国を経て日本にも伝わり、中大兄皇子や中臣鎌足もその球戯(蹴鞠)を楽しんだ。その記録が日本書紀に残されている。西は古代ローマ(カルチョ)、中世フランス(ラ・シュール)を経てイギリスに伝わり、19世紀にルールが整えられ、アソシエーション・フットボール(サッカー)となり、全世界に広がった。

 イギリスでは、ラグビー、ホッケー、クリケットなど、サッカー以外にも「太陽を支配する遊び」が誕生した。が、サッカーだけが脚のみを用いるというルールによって、生まれながらの身体的差異を解消することに成功した。
 背の高い人も低い人も、身体の大きい人も小さい人も、それぞれに自分の身体的特徴を生かしてプレイできる。その結果サッカーは、世界中のすべての人々が平等な条件で闘えることになった。
 クリケットやベースボールなどの球戯も身体的優劣を問わない。が、サッカーに比べて多くの道具を用いるため、経済的負担が大きい。その点サッカーは、ボール1個あれば、どこでも、誰でも、プレイすることができる。

 人類文明5000年の歴史、身体的平等、経済的平等。この3点でサッカーに勝るスポーツは存在せず、サッカーのW杯は「地球上の人類最大の祭典」と呼ばれ、全世界の人々が熱狂するのだ。


(「損保のなかま」2010年6月1日付より)


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