スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■19 プロ野球を愛した最後のオーナーの死

 8月15日元巨人軍オーナー正力亨氏(92)が逝去された。父親の松太郎氏は読売新聞社を大新聞社に育て、東京読売巨人軍を創設し、プロ野球リーグの創始に尽力。「プロ野球の父」と呼ばれた大人物。その長男として亨氏は、川上監督のV9時代から巨人軍のオーナーを務め、続く長嶋監督時代には「江川事件」(法大OBの江川卓投手をドラフト無視の「空白の一日」で電撃的に獲得)の当事者として日本中のプロ野球ファンから非難を浴びたりもした。

 しかし彼は野球が大好きで、オーナーを辞した後も、毎試合東京ドームへ足を運び、愛する巨人を応援し続けた。

 今もプロ野球の12球団には「オーナー」が存在し、プロ野球運営に関する最終決定権を持つ最高機関の「オーナー会議」を構成している。が、「オーナー(所有者)」とは名ばかりで、実質は親会社の社長クラスの人物が「オーナー」の肩書きで運営に参画しているに過ぎない。

 しかも実質的オーナー(球団所有者)といえるソフトバンクの孫正義氏や楽天の三木谷浩史氏は、球団を獲得した直後こそプロ野球への様々な提言を口にされたが、最近は発言もなくなり、試合を見る機会も減ったようだ。

 事情はアメリカ大リーグも同じ。かつては球団を所有し経営する野球好きのオーナーが集まり、リーグ運営に携わっていたが、最近のオーナーは球団の持ち株会社の株を最も多く獲得するだけで、球団経営やリーグ運営は専門家に任せ、「オーナー」は球団価値(株価)が上昇したところで球団株を売って利益を得るのが常になっている。

 つまり日米ともに「オーナー」の野球への「愛」など、どうでもよくなったのだ。時代の変化なのだろう。が、プロ野球を愛した最後のオーナーの死は、どこか寂しい。

(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数)


(「損保のなかま」2011年10月1日付より)


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