スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■22 ジャイアンツ内乱の根本的問題

 プロ野球日本シリーズは見事な投手戦の連続で第7戦までもつれた末、福岡ソフトバンクホークスが4勝3敗で中日ドラゴンズを下した。
 が、その名勝負の裏で残念だったのはシリーズが始まる前日、巨人の清武英利球団代表が記者会見を開き、親会社の読売新聞社の主筆で最高権力者といわれる渡邉恒雄会長の「独裁的な球団支配」に「反旗」を翻したことだった。

 渡邉会長はプロ球界に大きな影響を与える人物だけに、マスコミは大騒ぎし、日本シリーズに水を差す結果となった。これが真っ当なプロ野球組織(例えば米大リーグ)だったら、最も重要なイベントを傷つけたということで、清武、渡邉両氏ともに、球団職務の資格停止3カ月といったペナルティーと数百万円の罰金が科せられるところだろう。

 しかし日本のプロ野球リーグは、そもそも昭和11年に読売新聞社が中心になって設立され、以来今日まで、同社を中心に運営されてきた。
 また同社はマスコミの力を用いて巨人の宣伝に力を入れ、チームの強化にも力を注ぎ、その人気と実力を背景に、プロ球界をけん引してきた。
 そのため少々巨人が球界で自分勝手な横暴(別所、江川等の名投手を引き抜いたり、FA、逆指名といった自チームに有利なルールを作ったり、1リーグ化構想を画策するなど)を繰り返しても、他球団は強く抗議できなかった。

 今回は球団内部から「横暴」を批判する人物が現れたが、結末の行方はともかく、問題の根源にはメディアの「スポーツ所有」の問題がある。
 メディアがスポーツチームやリーグを所有(支配)するとジャーナリズム(批判的精神)が機能しなくなる。日本の野球界の一番の不幸であり問題なのは、その点だろう。

(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数)


(「損保のなかま」2012年1月1日付より)


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