スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■24 重要なのは精神?肉体?

 1月14日、将棋の永世棋聖の米長邦雄氏(68)が「ボンクラーズ」と名付けられた将棋のコンピューター・ソフトと対戦し、113手で敗北を喫してしまった。
 この出来事をスポーツの視点から考えると、けっこう興味深い大事件といえる。

 チェスや将棋といった「盤上遊技」は、英語の表現ではスポーツの一種。「SPORTS」という言葉には、「遊び」「遊戯」「冗談」「洒落」といった意味もあり、非日常的行為(日常的労働から離れた行為)はすべて「スポーツ」と呼ぶことができるのだ。
 そのためチェス以外に、4人で行うトランプ・ゲームのブリッジも、英語圏ではスポーツの一種とされ、チェスもブリッジも、オリンピックの正式競技(Official Sports)や正式種目(Official Games)として認定されるようIOC(国際オリンピック委員会)に申請されたこともあった。が、最近チェスは(それにブリッジも)オリンピックを目指さなくなった。それは、人間のチェスの世界チャンピオンが、コンピューター相手にまったく勝てなくなった(コンピューターの新しいソフト同士でチェスの世界王者を争うようになった)からだ。つまりチェスは人間を形作っている「精神(頭脳)と身体」のうち「精神」だけで行えることが証明された結果、それは人間(精神+身体)の競い合う競技(スポーツ)ではない、と判定されたのだ。

 将棋は敵の駒が自分の駒にもなる複雑なルールのため人間が優位とされてきた。が、コンピューターが進化した。いずれアジア大会正式種目の囲碁も、コンピューターが主となり、スポーツ大会からはずされるだろう。そして未来は、人間が身体の重要性(スポーツの価値)をさらに強く認識する時代になるに違いない。

(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数)


(「損保のなかま」2012年3月1日付より)


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