スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■27 スポーツマンと国籍

 スポーツマンの「国籍問題」が騒がれた。きっかけはタレントの猫ひろしサン。マラソンのカンボジア代表としてロンドン五輪出場を決めたことに賛否両論が渦巻いた。
 反対派は五輪出場だけが目的の国籍取得はカンボジア国民に失礼で、カンボジアのランナーの将来を奪うという。
 国際陸連も国籍変更選手の増加を懸念。変更後は1年間国際試合出場を認めなくなった。例外的に、国籍取得国で1年以上の居住実績があるか、理事会の承認で出場は可能だが、倫理的な問題は残る。

 一方、猫サン支持派はスポーツマンの国籍変更は今や世界の常識で、日本もラモスやロペスというブラジル人をサッカー代表選手にした。なのに猫サンを非難するのは不当だという。が、この問題は「支持派」の論理に無理がある。
 ラモスなどはスポーツ(サッカー)のレベルの高い国から経済的に豊かな国へ国籍を移した。昨今問題になってるアラブ諸国がオイルマネーを使ってアフリカ人選手を帰化させ、五輪等での活躍で世界に「国威発揚」してるのも、このパターンに近い。
 またアフリカ諸国から欧米への国籍変更は、スポーツマン以外の人々の経済的理由の「移民」と変わらない。
 中国人卓球選手が大勢、南米やアフリカだけでなく、欧州諸国にも国籍を移しているのは、高いレベルの自国では五輪出場が不可能なので……と猫さんのケースに似ているようだが、その人数の多さは外国移籍が日常である華僑文化の延長線とも思える。

 そのような文化的伝統もなく、経済的事情でもなく、ましてや猫サンを7分も上回るカンボジア人選手が現れたのだから、この原稿が配信される頃には、猫さんが潔く自ら五輪代表を辞退されていることを祈りたい。

(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数)


(「損保のなかま」2012年6月1日付より)


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