スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


「サタデーリーグ」トップページへ
前ページへ


 ■32 日本プロ野球の外交力

 多くの日本企業がスポンサーとなって多額の資金を出しているのに、アメリカのメジャーリーグ(MLB)と選手会ばかりが利益(66%)を得て、日本のプロ野球(NPB)と選手会は、利益の取り分(13%)が少なすぎる――と主張し、日本の選手会が「不参加」を表明していた第3回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック=来年3月)は、結局、日本代表チーム(侍ジャパン)の「権利」がある程度認められることになり、参加することで決着した。

 この決定を、3連覇を期待する野球ファンは喜んだようだが、内実は隔靴掻痒(かっかそうよう)とでも言えばいいのか、いくつかの点で複雑な問題を残した。まず日米の不公平な利益分配は一切変更がなかった。それに対してNPB側はWBC以外の試合での「侍ジャパン」のライセンス権(スポンサーからの収入)を認めさせた……というが、そんなものは当然のことで、日本代表チームの活動に、なぜMLBの許可を求める必要があるのか? 

 また、WBC期間中の「侍ジャパンのライセンス権」は、アジア・ラウンド(一次リーグ)主催者の読売新聞社が、MLBから「興行権」を購入して所有することになっていたが、それをNPBに無償で譲ることになった。
 要するに日本側(読売新聞社)から日本側(NPB)へ権利が移っただけで、MLBが全てを決め、多大な利益も握るというWBCの構図は、全く変わらなかったのだ。

 3年後の2015年からはIBAF(国際野球連盟)主催で、WBCトップ12カ国による「プレミア12」という国際大会も始まるという。選手会は必死に権利を主張したが、まったく外交力のない組織(コミッショナーとNPB)で、新たな野球国際化の時代を乗り切れるのだろうか?

(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数)


(「損保のなかま」2012年11月1日付より)


「サタデーリーグ」トップページへ
前ページへ