スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■40 飛ぶボールと権力の二重構造

 「奇妙な話というほかない。今シーズンのプロ野球は昨シーズンよりも、よく「飛ぶボール」が使われていたというのだ。それも秘密裏に……。
 その事実を、プロ野球の最高責任者であるコミッショナーが知らなかったというのだから、これまた奇妙な話だ。こんな重大な「変化」を、コミッショナー事務局長が一人でボールメーカーに指示し、「口止め」までしていたのだから、これまた奇妙な話だ。

 そもそも今シーズンは昨シーズンよりも、ホームランが約1・5倍にも増えている。選手の多くも「今年のボールは飛ぶ」と言い、目の肥えたファンも「飛ぶ」と確信していた。反発係数の調査でも「飛ぶボール」への変更は明白。それを「選手(打者)の努力の結果と思っていた……」と記者会見で語った加藤コミッショナーの言葉も奇妙な話。
 さらに一切を知らなかったコミッショナーが、自分が知っていたら「公表していた」と言いながら、選手やファンに「ボールの変更」が隠されていたことを、「不祥事とは思わない」と言ったのも奇妙な話。
 そして自らの「ガバナンス(組織統率力)の(欠如の)問題」と言いながら、責任を取って職を辞さないのも奇妙な話。

 しかし、何が一番奇妙な話か……と言えば、記者会見の席で新聞記者たちが、コミッショナーやコミッショナー事務局長を、あまり鋭く追及しなかったことだろう。
 「コミッショナーが知らなかったはずはない!」「事務局長一人で下せる命令ではない!」ということを誰も追及しない。それは、コミッショナーより「力」のある人物が存在することを誰もが知ってるからだ。
 それは読売グループのトップ渡邉恒雄氏だが、こういう「隠れた権力の二重構造」が存在する限り、日本のプロ野球の発展はあり得ないだろう

(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数)


(「損保のなかま」2013年8月1日付より)


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