スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■43 体育からスポーツへの転換を

 2020年オリンピック&パラリンピック開催都市が東京に決まった。
 北朝鮮や韓国、中国のIOC委員の説得に成功する「外交力」を示した上、パラリンピアンの佐藤真海選手などが見事な最終プレゼンを披露。またスペインの新聞が「マドリードが勝利する」と先走って報道したことが、IOC委員の反感を買い、最終的には東京が圧勝した。

 福島原発の汚染水処理問題など、今後7年間で取り組むべき問題は山ほどあるが、それはさておき、不思議な因縁を感じたのは、この決定の1週間後に、元巨人の王貞治さんらが持つシーズン本塁打55本のプロ野球記録を、プロ野球ヤクルトのバレンティン選手が49年ぶりに更新したことだ。王さんがこの大記録を打ち立てたのは、東京オリンピックの開催された1964年。

 当時、日本は選手強化として、有力選手を日体大などの大学や自衛隊体育学校に入学させて鍛えた。また戦後GHQ(連合国軍総司令部)が禁止した、戦前の小中学校での軍事教練的な体力テストを復活させた。
 つまり、東京五輪をきっかけに全国的にスポーツが盛んになったが、その中心は「学校体育」だったのだ。「体育」では先輩後輩の序列を重視するなど、全ての人が平等に実力を競うスポーツとは相いれない面も多々ある。だから王選手の偉大な記録を抜きかかる選手は四球攻めで勝負を避けられ続けた、とも言える。

 しかし最近は、スポーツで世界的に活躍する日本人は、水泳や体操、サッカーなど、地域社会のスポーツクラブ出身者が多くなった。そして学校体育は体罰問題などで揺れている。
 新しい東京五輪は、あらゆる意味で「体育からスポーツ」への大転換を完成させる大会になりそうだ。

(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数)


(「損保のなかま」2013年11月1日付より)


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