欧米から日本にスポーツが伝播(でんぱ)したのは文明開化の1877〜79年ごろ。
陸上競技や水泳、テニス、ゴルフ、フットボールなど、あらゆるスポーツが伝わり、中でも野球は日本国民から圧倒的人気を得た。
そんな中、野球に関する俳句や短歌をたくさん残したのが、歌人の正岡子規だった。
「恋知らぬ猫のふりなり球あそび」
「夏草やベースボールの人遠し」
……と、叙情的な野球の歌があるかと思うと
「久方のアメリカ人のはじめにしベースボールは見れど飽かぬも」
「若人のすなる遊びはさはにあれどベースボールに如くものもあらじ……」
……と、野球を絶賛する歌もある。が、素晴らしいのは、野球の興奮をそのまま描写した次のような歌だろう。
「打ち揚ぐるボールは高く雲に入りてまたも落ちくる人の手の中に」
「今やかの三つのベースに人満ちてそぞろに胸の打ち騒ぐかな……」
……選手やボールが動くだけで、ワクワクした気持ちになるのは、草野球を一度でも経験した人なら理解できるはずだ。
が、子規の時代から約100年を経て、俵万智は『サラダ記念日』という歌集で、次のような野球の歌を発表した。
「日本を離れて七日セ・リーグの首位争いがひょいと気になる……」
この歌から思い浮かぶのは新聞に載った順位表であり、野球のシーンではない。
今年のプロ野球も熱戦が続いたが、そういえば最近の野球場の観客は、メガホンを振り回し、飛び跳ね、野球をほとんど見ていない。
(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数) |