スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■58 サッカーの「監督」誤訳を改めよ

 サッカー日本代表チームのアギーレ監督が、スペイン1部リーグの監督時代に行ったとされる八百長疑惑で、窮地に立たされている。
 日本サッカー協会は本人の「無実」の主張を信じ、監督続投を決めたが、今後の展開はまったく不透明だ。が、ここで少々気になるのは、「監督」という言葉である。

 日本のスポーツの「監督」という言葉は、野球の「フィールド・マネジャー」の訳語だ。野球では強打者でもヒットの確率は3割ほどで、思い通りのプレーが難しい。そこでベンチにマネジャー(管理者・監督)を配置し、選手が気分良くプレーできるよう、彼らを精神的に管理監督している。

 一方フットボール系の球技(サッカー、ラグビー、アメフトなど)で作戦通りにプレーができなくなるのは、対戦チームの対応が優れているからだ。味方のミスが原因となる場合は少なく、そのときは即座に作戦変更を指示しなければならない。
 そのため、ベンチで采配を振るう人をマネジャー(監督)ではなく、(ヘッド)コーチ=(最高)指揮官と呼ぶのが海外では一般的だ。スペイン語やイタリア語のディレットーレ(ディレクター)も同じ意味で、ドイツ語ではトレイナーという言葉を使う。
 いずれも試合や練習(トレーニング)で選手に指示を出すが、選手を「監督・管理」する立場ではない。

 ところが日本では野球用語がスポーツ全般の用語に転化。陸上競技や格闘技、テニス、卓球といった競技にまで「監督」という言葉が広がり、選手は監督に私生活まで管理監督される傾向が強くなった。
 だから「アギーレ・ジャパン」といった言い方もされるのだろうが、「誤訳」は改めるべきで、サッカーではコーチと言うべきだろう。

(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数)


(「損保のなかま」2015年2月1日付より)


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