スポーツ博覧会
スポーツ・ライター 玉木正之


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 ■65 日本の赤字国債、借金のきっかけはオリンピック

 新国立競技場の建設費を「高すぎる!」という国民の声に押されたのか……
 あるいは安全保障関連法案の強行採決によって下落した内閣支持率を上げるための人気取り政策か……。
 真の理由は、よくわからない。が、とにかく新国立競技場の建設が見直されることになった。
 遅きに失した感はある。が、とにかく2520億円もの莫大な金額が注ぎ込まれなくなったことは喜ぶべきだろう。
 もしも東京オリンピック・パラリンピック組織員会の森喜朗会長が口にしたとおり、「3000億、4000億かかろうと素晴らしいものを造るべき」ということを実行していれば、我々の子供や孫が、無用の長物のために税金に苦しむ羽目に陥っていたことだろう。
 実は1976年のモントリオール五輪がそうだった。
 奇抜なデザインの選手村宿舎や、屋根付きメインスタジアムの建設で(結局屋根は五輪までに完成しなかったが)約10億ドル(現在の日本なら1兆円以上に相当)の赤字を計上したモントリオール市とケベック州は、不動産税や煙草税の増税で赤字の完済に2006年までかかった。
 しかし、これは何も対岸の火事の話ではない。
 1964年の東京五輪が終わった翌年、大きな祭りの終わった後に最悪の不況に見舞われた日本は企業の倒産が続出。税収も落ち込み、それでもなお倒産対策の補正予算を組む必要が生じた当時の佐藤栄作内閣は2950億円の赤字国債の発行に踏み切った。
 それは「あくまでも特例」の史上初の出来事だったが、それが今では恒常化し、日本国の借金は1千兆円を超えた。
 その最初のきっかけが東京五輪だったとは断定できないだろうが、2020年の五輪で同じような「負の遺産」を積みあげてはならないはずだ。

(スポーツライター・音楽評論家。国士舘大学体育学部大学院非常勤講師。著書多数)


(「損保のなかま」2015年9月1日付より)


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