スポーツに吹く風
スポーツジャーナリスト 泉 准也


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 ■6 横浜・工藤投手は選手の鑑

イラスト

 七月、久しぶりに横浜スタジアムに足を運んだ。
 今季はシーズン中の監督交代劇などもあって、リーグ最下位のどん底状態からなかなか這い上がれないベイスターズ。
 試合前の調整に余念がない工藤公康投手の動きを追った。

 五月で四十六歳。動きはまだまだ軽快だ。先発からリリーフへ。年俸も大幅減と厳しいシーズンが続いているが、この日どういう形であれ、投げれば「六百試合登板」(三十四人目)の達成だ。
 それを取材したさに訪れたわけだが、見事やってくれた。登板記録は地味に聞こえるが、投手にとって大変な数字だ。工藤の二十八年のプロ野球人生においても大金字塔ともいえる貴重な記録だ。

 「家族が協力してくれた。トレーニングや体のケアをやってくれた人、肩肘の相談にのってくれたお医者さん、これまでの監督、コーチにもお世話になった」
 この言葉にありったけの感謝の気持ちが込められているのが分かる。「どれくらいの価値があるかわからないが、残した実績という部分では歴史になるんでね」と工藤、素晴らしい笑顔で語った。

 既に通算二百二十四勝(歴代十三位)。傑出したシーズンはないが、シーズンのMVPを二度(西武、ダイエー)も獲得している。

 家庭では今どき珍しい五人(二男三女)の子どものパパ。プロ野球選手が陥りやすい女性、酒、バクチの「三悪」にも無縁の男で、「練習熱心で体の手入れも抜かりなし。野球一筋、まさにプロ野球選手の鑑だ」と球界の大物OBも賛辞を贈る。
 「マウンドに上がれば、十九歳も四十六歳も変わらない」という左腕。
 もっともっと勇気と夢を与え続けてほしいものだ。


(「損保のなかま」2009年9月1日付より)


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