愛犬 ハッピー物語

(1)縁の下から「クンクン」

作 臼井 淳一



 僕の名前は健太といいます。僕の住んでいるところは東京の狛江市という、多摩川の近くです。これからお話をするのは、僕が小学校1年生のころの出来事です。
 ある夏の朝、僕の寝ているベッドの下の方から「クンクン」という、動物の鳴き声が聞こえました。

 僕の家には、カブトムシ、クワガタ、鈴虫。水槽にはメダカ、タナゴ、金魚。それに庭の池には、多摩川から捕ってきたエビガニ、鯉、フナ、なまず、くちぼそがいます。ときどき猫がきて、食べられてしまいますが、また、多摩川から捕ってくればいいと思い、そんなに気にしていません。

 「クンクン」という鳴き声は、僕の家では、初めての出来事なので、急いでお母さんに知らせました。今日は、お父さんは、夜勤の泊まりなのでいません。お姉さんと3人で庭に出て「クンクン」の謎を発見しました。縁の下に、眼のクルクルとした、真っ黒い子犬がいるではありませんか。
 お母さんが、クッキーをあげると、パリパリとおいしそうに食べました。食べ終わったあと僕の手を、ぺろーぺろーとなめるのです。
 僕はお母さんに「家で飼いたい」。お姉さんも「飼おうよ。飼おうよ」といいました。

 僕は、そのとき思いました。お父さんは絶対に反対するだろう。お父さんは、自分が子供のころ、動物をいじめてきた話ばかり、僕たちにするのです。お父さんの話はとても面白いですが、残酷なのです。猫を2階から放り投げたお話。鳩に目隠しをして、落ちるまで飛ばしたお話。野良猫を捕まえてきて、籠の中に入れて、弓矢で撃ったり、本当に玉が出るピストルを作り、それで猫を撃ったりして殺したお話。カエルのおしりに、自転車の空気入れを射し込み、おなかを爆発させたお話。ねずみ取りにかかったネズミを川に流し、みんなで石を投げて殺したお話。まだ、たくさんあります。

 お父さんは、子犬など多摩川の橋の上から投げ込むのは、なんとも思わないでしょう。

 夕方、僕が学童保育所から帰ると、子犬はいませんでした。お母さんと、お姉さんの3人で、遠くの方まで捜しましたが、見つかりませんでした。僕は、がっかりしてしまいした。

 その夜、ご飯を食べていると、玄関の方でガリガリという音がしました。子犬が戻って来たのです。僕はお父さんに、今日の出来事を一気に話しました。お父さんは、ビールを飲みながら、僕たちにこんなことをいいました。
 「うーん、この犬は縁がある。明日、犬猫病院でオスかメスか調べてもらい、オスだったら家で飼おう。散歩は健太とお姉さんがやるのだ。名前はハッピーだ」
 と力強くいいました。
 
 なんだ、なんだ、名前までお父さんは、勝手に決めているのです。オスでもメスでも家で飼うことにきまったのです。僕は心のなかで「ヘンシン!」とウルトラマンを3回叫びました。

[1999年9月] 

(写真はハッピーと僕とお姉さん)



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