思うがまま…II

臼井淳一
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(3)勇気の出し惜しみはいけねえ

 大和駅から横浜駅まで十数年ぶりに相鉄線に乗りました。相変わらず横揺れがひどく本が読めない車両です。ここで「事」が起こりました。

 わたしの対面にサングラスをかけウォークマンを聞き、大きく足を広げ、二人分の座席を占拠している30歳前後の男がいました。

 その前に突然つかつかと40歳前後の眼鏡をかけた一見「公務員風」の男性が歩み寄りました。そして「事」が始まりました。

「空けてください」と言うなり座りました。その途端にサングラスの男は、肩をドーンとぶつけて来ました。そしてこんな会話がはじまります。

「ここじゃ皆さんにご迷惑がかかるでしょう。次の駅で降りるかい 兄さん」とフーテンの寅さんのような優しい声で言いました。
 そう言われてサングラスの男はウォークマンをはずし無言で、睨み付ける。

 公務員風の男性は眼をそらさず。
「度胸もないくせに 格好付けやがって 降りるのかい どっちだ」高倉健のような低い声だが圧力がこもっている。
 この一言でサングラスの男は下を向く。

「いいかい 若への ここは電車の中だ 素人衆がたくさん乗っていなさるのだ。大股広げるなら別の場所でやれ」と静かに「鶴田浩二風」にさとすように言いながら、親指と人指し指でチョンと男の眉間を打つ。
 サングラスの男は怯えてさらに肩を落す。

 わたしは思わず「よー 高倉健 鶴田浩二 渥美清」と叫びたくなりました。

 サングラスの男は次の駅で降りていたら、暗い所で腕の1、2本は折られていたでしょう。

 公務員風の男はインテリーやくざだと思います。外見で人間を判断しましたらとんでもないことになります。

 さらに続きがあるのです。斜め前に立っている老婦人お二人に優しく言いました。
「もしもし ここに座ってください 若への立て」
「ありがとうございます。申し訳ございません」

 時間にして3分もないですが、中身の濃い「映画」を観たような気分になりました。

 気持ちが晴れ晴れといたしました。そうそう入場料をどこかで払わなければいけません。サングラスの男に払ったいいのか。それとも公務員風の男に払ったらいいのか大いに迷うところです。

 今夜は、野球関係の若い人の「ご苦労さん会」に呼ばれ、雨の中を横浜まで出てきた甲斐がありました。

 散歩トレーニングのおかげで胃腸の調子も良く、ビール、ウイスキーのお湯割り、焼酎のお湯割りを飲み、かつ大いに食べ40代の気分に戻らせていただきました。

「ご苦労さん会」も盛り上がり、数年ぶりに「午前様」になってしまいました。

 わたしも昔は、痴漢を脅かしたり、車内で騒ぐ高校生を叱ったりしましたが、歳をとるに連れ「係わり合い」を恐れる人間になってしまいました。

 よーく。考えますと、あと何年も生きられないのです。年寄りこそ勇気をもって社会の善・悪に当たらなければいけないのです。腕力でことを解決するのではなく「年寄りの知恵」で難問を解決したいです。

 そうそう日本の悪政になぜ「暴動」が起きないのか、外国の人が不思議に思っていると聞きました。日本の若者に腰抜けが多とも言われています。

 それならそれで今こそ年寄りが立ち上がろうではありませんか。何しろ歴史的な日米安保闘争を体験している強みがあるのです。
 年寄りとあなどってはいけませんよ。「やるときには やりますよ」孫の世代のために。

「勇気の出し惜しみはいけねえ どうせ人間は死ぬ時は来るのだ 開き直って生きりゃ 先がひらけるぜ」(池波正太郎)


(2011年3月15日)



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