「怖い」といえば、山の雷です。山仲間の長谷川と北岳の頂上で雷にあいました。稲妻が上からではなく下から光るのです。雨も横から刺さるように降るのです。
立っていたのでは確実に雷に打たれます。低いところに身を寄せる所はどこにもありません。雷から身を守るのには、唐松の中にもぐりこみ、シラフをかぶって「ナンミョウホウレンギョーク」「アーメン、ソーメン」と祈るしかありません。
日ごろは神、仏をおろそかにしていますが、この時ばかりは「頼る」のは神、仏です。それも欲が深く、キリスト教からアラーの神様まで、全部にお願いしてしまうのです。
雷は去っていきました。辺りはきな臭いです。唐松が全身に刺さって痛いです。体もびしょぬれです。
北岳小屋に入り、ウイスキーを一口含むと、ゲボッと全身から吐き気がもよおしました。全神経が緊張していたのです。
あぁ、青春の緊張は北の彼方に消え去る。
今、わたしにできることは、最果ての北の街にある「カラオケボックス」で「北の宿」を唄えることぐらいです。あぁ「ブルーナイツ横浜」も唄えます。