【12】「人と会わない山々」
作  臼井 淳一
挿絵 金光 敏博


 日本の山でどこが一番好きかと。と聞かれますと、それは「人と会わない山」と答えます。けれども北海道の山は「熊」と遭いますから行きたくありません。

 昔、志賀高原の岩菅山から切明温泉まで、根本という山仲間と歩いたことがありました。岩菅山までは何人かあいまいしが、この山を過ぎるて切明温泉まで、だれとも会いませんでした。温泉といっても「宿」があるわけでもなし。無人の切明発電所かあるだけです。
  
 河原の砂を少し掘っただけで「温泉」が出てくるのです。それも熱くて入れないので、川の水を引いて素っ裸で入りました。なにしろ辺り一面だーれも人がいないのです。


きりえ「山の湯」


 さて、30分も温泉に浸っていますと「猿」が現れました。このときほど、なにかほっとしました。それは「人」に近い「ひと」とお会いできたからです。

 すっかりふやけた足には、登山靴は入りません。林道を2時間かけて、やっと今晩の宿であります。平家の落人部落だったと言われる和山温泉にたどりつきました。この日、10時間歩き8時間はまったく人に会いませんでした。

 この宿から見るトリカブト山は雄大です。恥ずかしいことですが、この山は2度登り、3度目にやっと頂上に立つことができました。道に迷ったわけではないのです。道がなくなってしまうのです。
 実は道がなくなったところに垂直に鎖があり、ここを10メートル下ると。頂上への道があるのです。頂上には小さな「祠」があり、名前を記帳できるのです。けれども頂上からはなにも見えません。熊笹におおられ、今にも熊が出てきそうな頂上です。

 人気のない山ですが、こんな山が私は大好きです。

 この話しは20年以上も前のことです。今では林道も舗装され、切明にも温泉宿ができ、「冬は陸の孤島」と言われるほど雪がつもりましたが、今では夏でも冬でも車が通れ、すっかり観光化されてしまい。つまらない場所になっているとか。と聞きました。

[2001年12月31日]



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