やっ
康さんのこと(1)

《 ハトを食べた話 》

作 臼井 淳一  



 おいらの小学生のころ、ハトを飼うのが流行っていました。大人はハトレースに出したりしていましたが、おいら達の飼うハトは、せいぜい5キロぐらい離れたところから飛ばし、1時間もかけて帰ってくるのです。中には1週間もかかって帰ってくるハトもいました。そんなハトは殺して焼き鳥にして食べてしまうのです。

 あるとき、康(やっ)さんの可愛がっていたハトと、おいらのハトと一緒に自転車で2時間かけたところから飛ばし、おいらのハトは家に帰る前に帰っていましたが、康さんのハトは2日たっても、3日たっても帰ってきませんでした。5日目にやっと帰ってきました。
 康さんは喜んでおいらに報告にきました。おいらは「そんなハトは食べてしまえ」といいました。

 おいらは3人兄弟の長男、おいらが小学5年生で4年、3年と続く兄弟です。康さんはおいらと同じ5年生で、3つ下に女の子、さらに3つ下に男の子がいました。だから、おいら達とは兄弟みたいに遊びました。おいら達3人兄弟が「そんなハトは食べてしまえ」ということには、従うほかはないのです。

 さっそくハトの焼き鳥の支度です。まず川に行き、ハトを足の間にいれ、おもいっきり首をねじるようにして引きぬくのです。そして血をぬき、羽根をとり、家にもっていき、料理して、4本の串にさすのです。それをガスコンロで焼くのです。とてもいい臭いがするのです。まず、飼い主の康さんから食べるのです。康さんが食べ始めると、おいら達も食べるのです。

 2番目の弟が「うめーか康さん」と言うと、康さんは、目に涙をいっぱいためて、首をふって食べるだけです。3番目の弟が「康さんうめーよ」と言うと。康さんは泣き出してしまいました。

 それからしばらくして、康さんは、ハト5羽全部もってきて、「おれ、もうハト飼うのはやめた、あげる」といってきました。
 一番下の弟が「康さん、ぜんぶ食べていいの」と、言ったから、おいらは思いきり殴りつけた。(夏休みの前の暑い日のことでした)

(つづく)

[2000年6月]