やっ
康さんのこと(2)

《 職員室で「あっ、おじさーん」 》

作 臼井 淳一  



 おいらと康(やっ)さんとは、小学校3年生の時に、同じクラスになりました。
 その時のできごとです。
 二人で学校の小使いさん(用務員)のニワトリの卵を盗んで、担任の先生に、職員室でお説教をされている最中に、おいらの家の隣の駄菓子屋のおじさんが通りかかりました。
 このおじさんは小学校の先生でもあります。
 ふだんは、おいらも康さんも「おじさん」と呼んでいました。

 康さんは、思わず大きな声で「あっ、おじさーん」と叫んでしまいました。担任の先生は顔を真っ赤にして「おじさんとはなんだ。ここは学校だぞ」というなり、康さんの頭にげんこつが落ちました。おいらは思わずおかしくなり「ぷっ」と吹き出してしまいました。「こらー、笑い事じゃないぞ」と今度は、おいらの頭にもげんこつが落ちました。

 周りの先生も、笑いをこらえている様子です。おじさん先生は困った顔をして職員室を出ていきました。

 職員室から解放されて、おいらは腹が痛くなるほど笑い転げました。「康さん、おじさんはダメだよ。場所を考えないと」というと、康さんは「おじさんは、おじさんだ」と頑として譲りませんでした。

 このおじさん先生は、おいら達が中学生になると、中学校に転任してきたのです。そこでまた、康さんは「おじさん事件」をひき起こしてしまうのです。

 おじさん先生は、担当教科が「社会科」で、おいらの通知表には必ず「4」をつけてくれました。康さんは「1」でした。もっとも康さんは「体育」以外は1と2ばっかりだったからあえて気にしていませんでした。そういうおいらも「4」はひとつだけです。
 
 三学期の通知表は返す必要がないので、二人で、全部「5」にしてしまったことがあります。二人の親とも、あきれて怒ってもくれませんでした。

(つづく)

[2000年7月]