|
(1) Hero! Let、s drink (2) For Whom The Belle Tolls |
(1) 野茂英雄投手(当時ドジャース)が一九九五年、コロラド・ロッキーズとの対戦で、連続完封をあげたとき、現地のテレビ関係者が発した言葉である。 といえば、野茂の快挙を祝って「ヒーロー、一杯やろうぜ」という呼びかけに聞こえる。でも、実はこれ、「ヒデオ・ノモ」にひっかけてある。
親父ギャグアメリカ版と言ってしまえばおしまいだが、なかなか洒落たシャレではある。 (2) アーネスト・へミングウエイの「誰が為に鐘は鳴る」の原題だな、と早とちりしてはいけない。あれはFor Whom The Bell Tolls。鐘はBellであって、Belleではない。Belleとは、一九九五年のアメリカンリーグのホームラン王、アルバート・ベル(インディアンス)のこと。そのベルを賞賛する横断幕に書かれたフレーズである。 へミングウエイの名作「老人と海」にはハバナから見た大リーグが描れている。キューバの老漁夫サンチャゴは、カリブの沖合で、巨魚と孤独な死闘を繰り広げながら、ヤンキースのジョー・ディマジオのことを、幾度も思う。 たとえば、「ところで、大ディマジオだって、今の俺ほど気長に魚と付き合えると思うかね?」(福田恒存訳、新潮文庫)と。 ディマジオの五六試合連続安打という大記録は六十年後の今も破られていない。サンチャゴの「大ディマジオ」という評価は現代に引き継がれている。 この、粋な横断幕の後景に、カリブの海上、キューバに息づく大リーグ、文学に確固とした位置を占める野球、ディマジオからベルに連なる大リーグの重厚な歴史が見えてくる。 日本の球場で、オッとうならされる豊かなボキャブラリーの横断幕にはなかなか出会えない。ヒーローインタビューでアナウンサーと選手が交わす定型的で、独創性のないやりとりに似て知的な刺激がない。 本稿二つの英語は、筆者の親しい友人である大リーグ通の春日良治氏から、同氏の体験談として教えてもらったものだ。同氏の著書「英語再発見」(丸善ライブラリー、 七○○円)にも収録されているので読者にお薦めしておく。 |
(「損保のなかま」2004年5月1日付より)
|