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ナックルボールを捕球する感じがどんなものかって? 俺に聞いても無駄だ。あんな球は取れるわけないさ。後ろに逃がすだけだからバックネットに聞いてくれ。(インディアンスのサンデー・アロマー捕手)
レッドソックスのウェークフィールド投手もナックルボーラー。今年のヤンキースとのプレーオフでは一イニングに捕手が三回もパスボールしていた。コースはほぼストライクなのに、である。 ナックルボーラーたちは軽いキャッチボールのような感じで投げる。球速は時速100キロからせいぜい110キロ。草野球の投手でも並みのスピードだ。 そのせいだろうか、ナックルボーラーたちの投手寿命は長い。ホイト・ウィルヘルムは現役中に「あいつは生涯殿堂入り出来ない。なぜなら死ぬまで投げているからだ」といわれたくらいだった。彼が引退したのは49歳だった。 ニークロ兄弟として有名な、フィル・ニークロ、ジョー・ニークロ両投手もそれぞれ、49歳、44歳まで投げ続けた。兄弟で合計五三九勝も挙げている。ナックルボールの威力と、それを駆使する投手達の選手寿命を象徴する好例だろう。 日本のプロ野球にもナックルボールを投げる投手がいないわけではない。たとえば巨人の前田幸長投手である。しかし、彼が投げるのは、一ゲーム中、せいぜい二、三球程度だ。ところが大リーグのナックルボーラーたちは、投球のほとんどがナックルボール。これでもか、これでもかと得意のナックルばかりを投げ込む。ストレートは、それこそ一ゲーム中二、三球だ。よくも飽きないで同じ球ばかり投げ続けるものだ。 日本の投手は、いろんなボールのコンビネーションで相手の裏をかいて打者を討ち取ろうとする。アメリカの投手は相手との相対関係を計算するより自己を強烈に主張する傾向が強く、いつも自分の得意とするボールで勝負したがる。 色とりどり、さまざまな料理に少しずつ手をつけ、味わいを比較吟味しながら摂る日本人のバランス感覚。 一つの料理に集中し、とことんそれを味わいつくしてしまわなければ気がすまないアメリカン。そんな食文化と野球文化もどこかでつながっているのかも知れない。 |
(「損保のなかま」2004年11月1日付より)
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