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「罪の意識はなかった。それが本拠地のアドバンテージだ」(ディック・エリクトン) ディック・エリクソン氏はツインズの本拠地メトロドームで一九九五年まで球場管理人を勤めていた人である。その彼が、ホームチームを勝たせるためにドーム球場の送風操作を行なっていたと告白したのは二〇〇三年七月のことだ。ゲームの終盤で、ツインズがチャンスを掴むと打球を助けるように空調操作をしたといいうのである。これによって単なる外野飛球が、どれだけホームランになったのか、あるいは外野手の頭を超えたのか、詳しいことは不明だ。しかし「九一年のワールドシリーズ第六戦で、ツインズのバケット選手が打ったサヨナラホームランは、風の助けの必要のない、十分に強い打球だった」と強調しているから、逆説的に受け取れば、かなり多くの打球に影響を与えたということだろう。 ホームランが出やすいといわれる読売ジャイアンツの本拠地・東京ドームは、このメトロドームをお手本として作られている。「そういえば・・・」と思い当たるアンチ巨人ファンは多いだろう。 ベーブ・ルースのホームランを増ために、ヤンキースタジアムがライドスタンドまでの距離を短くしたのは有名な歴史的なエピソードだが、ビジターチームのダグアウトには冷房を設置しないで相手を疲労困憊させる作戦をとったチームもあったように、大リーグのホーム・アドバンテージゾーンはかなり広い。 カープの本拠地、広島市民球場は西日が一塁側ベンチを直撃する(現在は改善された)真夏などは直射で自軍の選手がくたびれ果てる始末に、ビジターチームのダグアウトを一塁側に移す案が検討されたが、さすがに実行には踏み切れなかったようだ。 日本球界では本拠地アドバンテージ(?)とされていたものの一つに、スコアボールド付近からの望遠カメラなどを使った「サイン盗み」がある。野球に限らず日本人は盗撮、盗視を好む民族だと思われるのは恥ずかしい限るだが、大リーグでは走者によるサイン盗みさえ最低の行為として鋭く排斥されている。 ホームチームに許されるアドバンテージは、ファン圧倒的な声援だけだ。人為的で姑息な手段は野球への信頼を失わせる。しかし、エリクソン氏のこの「告白」を受けて、大リーグ機構が調査に乗り出したなどという話は聞かない。どうしてだろうか。 |
(「損保のなかま」2005年8月1日付より)
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