【母への手紙】
横浜市生麦小学校 浅沼 伸二
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【小沢先生の赤ペン評】 |
ねえちゃんと、ねえちゃんの友だちといっしょに、おかあちゃんの病院にいってから、もう二週間になったね。帰るとき、おかあちゃん、マスクしながら、
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手紙ですから、おかあちゃんに話しかけるような口調で書き出していますね。 |
「ねえちゃんのいうこと、よくきくんだよ。」
といったね。ぼくのえりをなおしながら、百円玉二つくれたね。
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このコトバと様子に、おかあちゃんの心が、ギッシリつまっていますね。 |
あのとき、ひさしぶりに、おかあちゃんの顔を見て、ぼくは、ひとりでに、なみだがでちゃったよ。おかあちゃんも、目を、しょぼしょとしていたね。ぼくは、あのときのことを、詩に書いたんだよ。そしたら、先生が、ろうかにはりだしてくれたんだよ。
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そうでしょう。
そうでしょうとも。そうでしょうとも。
「しょぼしょぼ」という日本語は、こうした時にこそ、使うのです。 |
おかあちゃん、ぼくね、おかあちゃんといっしょにくらせなくなってからも、ピンピンしているよ。
このあいだ、岩井くんの詩を勉強していたとき、先生が、
「このぎょうで、なおしたほうがよいところあるか?」
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ここで行をかえ、おかあちゃんに安心してもらえることを、書いていくのですね。 |
ときいたときにね、さっと手をあげたら、先生がさしてくれたの。こたえをいったら、先生が
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「さっと」は、たいせつなコトバですね。 |
「よーし、いいぞ伸二。わかったの、おまえひとりだぞ。」
と、兵隊のような声で、ぼくをほめたんだよ。
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先生のコトバと声。かあちゃんの心は、スーッと安らぎます。 |
それから、こんなこともあったんだよ。先生が、教室にはいってからすぐ、
「おい、ちょっときくけど、男女区別しないでなかよくするやつ、だれだ。」
ときいたら、ぼくの名前がいちばん多かったよ。石綿さんたちが、
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次の話に進めて行く。つなぎの文がじょうずです。「も」に、浅沼くんの心がこもっています。 |
「浅沼くんは、いつもニコニコしていて、体育のときなど、へたな人を、親切におしえてやったりします。」
なんて、ほめてくれたんだよ。ぼくね、テレくさくなっちゃった。
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このコトバ、ウンと大事です。おかあちゃん、自信の上に、なおいっそう自信を重ねます。 |
家ではね、おねえちゃんが六時に起きて、ご飯たいて、六時半に、ぼくを起こしてくれるんだよ。まだ、一日も会社を休んでいないよ。おねえちゃんは、会社の帰りに、夕方のご飯のおかずをかってきてくれるんだよ。
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ここからは、段落をかえ、家のことを書いていくのですね。スースーねている伸二に、おかあちゃん、どれほど、安心することか…。
「まだ一日も」ですね。
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おねえちゃんが残業のときは、浜のおばちゃんが、ぼくのようすを見にきたり、夕方のおかずをもってきてくれたりするよ。
あんちゃんも、ぼくとおなじで、学校、一日も休んでいないよ。アルバイトも十時ごろまで、ハリキッてやっているよ。それから、勉強も十二時半ごろまでやっているよ。『中の見ずし』が休みの日は、きょうだい三人で、夕方のご飯を食べるんだよ。ねえちゃんのごはんがおいしいこと、会社のこと、おかあちゃんのことなんかを話しながらたべてるんだよ。
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おばちゃんのことも、書きましたね。おばちゃんの家に、おせわになっているのですものね。
あっさりした書き方だけど、おかあちゃん、なみだこぼして、安心なさるでしょう。あっさり書いたので、おかあさん、よけいに安心なさるかもしれないな。
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おかあちゃん、そういうふうに、三人とも元気いっぱいだから、安心して、はやくよくなってね。
じゃ、またね。さよなら。
七月六日 浅沼 伸二
おかあちゃんへ
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「そういうふうに」というコトバが、ピタリと使えました。
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あ、そうだ。ぼくといっしょに、お友だち四十三人の手紙がはいっているけど、いっぺんに読んじゃだめだよ。頭がいたくなるといけないからね。すこうしずつ読んでね。
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「あ、そうだ」とつけくわえたところ、いかにもクラス一の元気者らしいです。おかあちゃん思いの浅沼くんらしいです。
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【評】
伸二くん。りっぱな手紙が書けました。りっぱなおねえちゃん・あんちゃんの弟、メソメソしないすえっ子の伸二くん、おかあちゃんおもいの伸二くんだからこそ、このような手紙が書けたのです。 |
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